序 章

2/7
前へ
/586ページ
次へ
 私の名前は上守比和子改め、正武家(しょうぶけ)比和子。  約一年前に結婚をして、名字が長いものへと変わった。  愛する旦那様の名は玉彦。  ツンデレで面倒臭く頑なな性格で、人間関係の機微に疎い所がある。  でも本当は感情を表すのが下手なだけであって、優しく思慮深い。  そして、ただただひたすら一途に直向(ひたむ)きに私を愛してくれるひとだ。  私が嫁いだ正武家という名家は、普通の家ではない。  正武家がこの鈴白村へと根付いたのは、時をずっと遡り平安時代と伝えられている。  彼らは都で帝に仕え、不可思議なるものの鎮めや祓い、退治などを担う貴族だった。  あるとき都から(わざわい)を追って訪れた鈴白村でお役目を全うしたのは良いものの、禍のせいで土地が荒れてしまい、人や作物が育ちにくくなってしまった。  そこで正武家は荒れ地に引き寄せられる悪いものを祓い鎮めているうちに、時の帝から『鈴白を清浄の地とするまで都に戻ること罷りならん』と(めい)を受けた。  この時『正竹家』の竹の字を『武』に置き換えて現在の『正武家』を名乗ることとしたのである。  これは必ず武功を上げ、都へと帰還するという決意の表れだった。  しかしそれから正武家は幾年も鈴白で祓い鎮めを行っていたけれど、その間に何代も帝は代わる。  そうすると人の世とは勝手なもので、何か不可思議なことがあると正武家に持ち込まれるようになってしまった。  祓い鎮めには幾年も必要とする場合があり、その間に何かが持ち込まれてエンドレスになってしまった。  そこで切りがないと都へ戻ることを諦めた正武家は、鈴白村に根付くことにしたのである。  ただし、帝にはそれ相応の見返りを要求し、認められた。
/586ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1057人が本棚に入れています
本棚に追加