第九章 『偶数代の玉彦』

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三時の休憩を終えた一行は、そこから上へと移動して、まだ陽が高かったけれどキャンプの準備を始める。 やはり先回りをしていた豹馬くんがキャンプ用品を抱えて待ち構えていた。 けれど先ほどのお菓子同様、疑問がある。 豹馬くんは一体、どうやってここまで荷物を運んだのかということだ。 私たちがいるのは本当に山の中で車道などは無い。 途中まで車だったとしても、一人で運ぶのは大変だろう。 しかし豹馬くんは汗一つ流さずにいるあたり、何かカラクリがありそうだ。 テントを三つ張って、私たちは散り散りに迷子にならない程度に山へと分け入る。 そこで枯れ木を集めて火を熾すのだけど、水分を含んだ生木が多くて使い物にならなかった。 そして枯れ木の変わりに怪しげなキノコを採ってきては、山に詳しい須藤くんに鑑定をお願いして競い合っていた。 ほんと、とんぼ塚探しというよりはただのキャンプだ。 夕闇が迫る頃、定番のカレーライスを作り、お腹が満たされた私たちは焚火の周りに集まっていつの間にか怖い話で盛り上がっていた。 子供たちの話は大体が村に伝わる言い伝えの現代バージョンで、彼らにするとありきたりなものばかりだったようだけれど、高校から転校してきた私にしては初耳なものが多くて一々隣の玉彦の反応を見てはこれは本物、これはデマと判断していた。 そして大半は本物ばかりだったのである。 時間も遅くなり、そろそろお開きかと思いかけた矢先、緋郎くんとコンビになっている和臣君が恐る恐る玉彦と須藤くんを窺いつつ、口を開いた。 和臣くんは、正武家の離れで仕えている那奈が以前働いていた建設会社の社長の息子で、眼鏡を掛けた気弱そうな男の子である。 「あのぅ、これはこの前お父さんから聞いた話なんだけど……」 そう切り出した和臣くんの話に皆が聞き入った。
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