第九章 『偶数代の玉彦』

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鈴白村を含む五村は大変な田舎だけれど、携帯電話の電波は通っている。 若い人たちはスマホを持っているけれど、年配の人は家の固定電話を使っている人が殆どだ。 私のお祖父ちゃんの家も、叔父さんや夏子さんはスマホを持っているけれど、お祖父ちゃんやお祖母ちゃんは家の固定電話を使っている。 そんな鈴白村には何個か電話ボックスがあり、問題の電話ボックスは学校の近くにあった。 その電話ボックスはガラス張りで緑色の縁取りがされている。 とある夜。 和臣くんのお父さんはそこを車で通りかかったそうだ。 仕事がいつもよりも遅くなり、ただでさえ人通りの無い静かな田舎道を走っていると、電話が鳴る音が近づいて来る。 車に乗っているのに電話の音が聞こえるって、そこからもう話はおかしいのだけど、その時お父さんは何故か気にならずにいたそうだ。 そして自分の携帯電話でもないしどこだろうと思っていたら、チカチカと蛍光灯が消えかかっている電話ボックスが目に入った。 お父さんは車を停めて中に入り、電話を受けようとした。 けれど、である。 電話ボックスにあるはずの電話が『無かった』。 携帯電話や固定電話が普及しているので、数年前に撤去していたことを思い出したお父さんは慌てて電話ボックスから飛び出して、車に逃げ込んだ。 いつの間にか電話は鳴りやんでおり、田舎ならではの虫の鳴き声しか聞こえなかったそうである。 それ以来、お父さんがそこを通っても電話の音は聞こえなかった。 なんてことはない、オチの無い怪談話にも聞こえる。 でも私の二の腕には何故かざわざわと鳥肌が立った。
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