第九章 『偶数代の玉彦』

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一同どう反応して良いのか黙り込んでいたら、陽気な緋郎くんが口を開く。 「じゃあ今度みんなで行ってみようぜ!」 身を乗り出した緋郎くんの顔を焚火の火が陰影強く照らす。 彼の横で大人しくしていた希来里ちゃんがチラリと視線を投げかけて、唇を震わせた。 「どこに行くの、馬鹿」 「どこってそこの電話ボックス!」 「だからどこにそんなのあんのって言ってんのよ!」 「え……あっ!」 希来里ちゃんに指摘されてようやく気が付いた緋郎くんは口をポカーンと開けたまま固まってしまった。 みんなから一瞬時間を置いて、彼も恐怖に襲われたようである。 電話ボックスは数年前に撤去されていた。 電話ボックスだけ残して電話だけ撤去したのではない。 全部撤去していたのだ。 私は美山高校に通っていたので、鈴白の小中学校近辺に詳しくはない。 それでもその辺りに電話ボックスなど無いことは知っていた。 何故なら電話ボックスを撤去するかどうか村内で話題になっているということを数年前に聞いて、結局は使用する人も居ないので撤去することにしたのだとお祖父ちゃんから聞いていたから。 多分希来里ちゃんたちが小学校一年生くらいの頃だろうと記憶している。 何気なく通学路にあった電話ボックスの記憶は残っていた緋郎くんは、よくよく思い出して現在はもう無かったことに気が付いた。
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