第九章 『偶数代の玉彦』

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「ふむ。では家の中にコウモリが出たとしよう。コウモリは人間に悪影響がある病気などを持っている。これを家の外に追い出そうとするのは、納得が出来る。だがもしこのコウモリが洞窟におり、わざわざそこへ人間が出向いたとしよう。どうする、緋郎」 「どうもしないよ。だって自分が出て行けば良いだけの話じゃんか。つーかわざわざそんなとこに行かなけりゃいいじゃん」 「そうだな。では件(くだん)の電話ボックスはどうであろうか。電話ボックス自体は何も悪いことはしていない。ただ電話が鳴り、そこへ和臣の父が引き寄せられた。その後何も問題は無い」 「でも無い物があるっておかしいじゃんか!」 「確かに不可思議ではある。が、何も悪さをしていないものまでどうにかしなくてはならない決まりは無いのだ」 「でも悪さをしてからじゃ遅いじゃん!」 緋郎くんの言い分は尤もだけど、相手が悪かった。 玉彦は私が食い下がると『そういうものだと思え』という決め台詞を言い放ち、会話を終了させる。 けれど相手が子供の場合は別なのである。 とことん相手が納得するまで問答をするのだ。 前に希来里ちゃんが面白がって、玉彦に『どうして攻め』をしたことがあった。 『どうして人間は呼吸をするの?』 『酸素を必要としているからだ』 『どうして酸素が必要なの?」』 ってな具合で答えにさらなる疑問を被せて、延々と質問を繰り返した。 最初は面白がっていた希来里ちゃんだったけれど、ことごとく玉彦が答えてしまうのにムキになり、夏子さんが止めに入るまでずっと質問をしていた。 大体二時間はそんなことをしていたと思う。 隣で聞いていた私は玉彦にそこまで真摯に答えなくても良いんじゃないかと言ったら、彼は子供の知的好奇心を満たす為に必要なことだと言う。 それを満たすと知識欲が沸き、成長するそうだ。 親が面倒臭がって答えないでいると、子供の成長する機会を無くしてしまうらしい。 玉彦は質問に答えるだけなので、子供からすると言い負かされた感は無く、じゃあ次はって話になり延々と話は続いていく。 ちなみにその子供とは主に希来里ちゃんとヒカルだった。 そして実は竜輝くんもだったりする。
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