序 章

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 それから四年後。  再び夏休みに鈴白村を訪れた高二の私はまたしても奇々怪々な出来事に巻き込まれ、玉彦と世間一般で言う婚約をし、本来ならば問題が解決すれば通山の家へと帰るはずだったのに様々な要因が重なって、というか(おも)に玉彦の我儘九割の意向があり、私だけ鈴白村に転居して正武家にお世話になっていた。ちなみに残りの一割は彼との間に余計な問題を起こしたくなかった私の気持ちだ。  普通の家庭なら嫁入り前の娘、しかもまだ高校生が婚約したとはいえその相手の家に住むことになったら猛反対だけど、鈴白村出身で正武家の当主である澄彦さんと親友だった私の父の光一朗は『五村では正武家がそう在る様に望めばそう為る様になっている』と半ば諦めていた様である。  そしてこの時期、私は『神守』としてのお力を予期せず手にしてしまった。  後から知ったことによれば、お祖父ちゃんの『上守』という名字は元々は『神守』といい、およそ百年程前に今のものとなっていた。  『神守』は正武家が鈴白へ根付くと同時に帝から『正武家に尽力せよ』との命を賜り、移住した一族で、読んで字の如く神様の守り役である。  神守が神様をお世話して、そのお力を正武家の為に振るってください。とお願いするのが本来の姿だったけど、それとは別に『神守の眼』と呼ばれる人為らざる世界を『視る』ことが出来た。  一概に『視る』とはいっても種類は様々で、日常生活で普通に視えてしまうものから不可思議な力で対象の精神世界のような心の中まで入り込むことが出来る。  最初は視えるだけだった私も、今は亡き御門森(みかどもり)九条(くじょう)さんという師匠のお陰でそれなりに眼を使いこなして現在に至る。  神守の眼の限界は未だ見えず、どこまで見えるようになってしまうのかは未知数である。  因みに神守の力はおよそ百年前に失われてしまったとされていて、神守から上守へと変わったのだけど、何故かお父さんの代からひっそりと復活していたのである。  それから。  私は高校を卒業してすぐに正武家での花嫁修業を、玉彦は大学進学の為に通山市で生活を始めた。  彼の卒業を待って、その年の四月に私たちは祝言を挙げてようやく夫婦として共に歩み始めたのだった。
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