序 章

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 これが私と玉彦が出逢ってから十年の出来事。  正確には私が五歳の時に彼とは出逢っていたのだけど、なぜか綺麗さっぱり忘れてしまっているので私にとっては十年。  玉彦にとっては十八年らしく、この話になるといつも口を尖らせる。  だってしょうがないじゃないの。  玉彦が五歳の時に私を蛇から助けてくれて、怖い思いをしたのを忘れろって言ったのを私は馬鹿正直にそこでの出来事を全部忘れてしまったんだから。  そして五歳の玉彦が私と共にいたいと願ったその時から、私は彼の『惚稀人(ほまれびと)』となったのだけど、その時は惚稀人は神様からの賜りものであるという考えだったので誰も気が付かなかった。  因みに惚稀人とは正武家の当主と添い遂げる伴侶のこと。  正武家は婿や嫁は長く居着けないけれど、神様から認められた惚稀人ならば共に在れる。  惚稀人は生涯に一人、きっと初恋の人に限るというのが澄彦さんの推測だったけど定かではない。  なにせ神様の考えることは世間の人間とはズレていることが多い。  そうそう、神様といえば日常生活において目に見えないけど存在している。  現に私には御倉神と呼ばれる神様がいて、玉彦や澄彦さんにもお世話になっている神様がいるのだ。  愛すべき神様たちだけど、こちらの常識は通用するとは限らない。  そんな不可思議な出来事が当たり前の様にある五村は正武家の鎮めの地。  昔からずっと彼らに護られ、繁栄してきた五村の地の人々は正武家を敬い畏れる。
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