バラ窓の下、中庭のユリ

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彼女の家は私と同じ小田急線沿線で、最寄駅は4つしか離れていませんでしたが、路線バスで通っていたので、私も一緒に帰りたくて、たまにバスで帰るようになりました。バスは乗りついで1時間以上乗ります。縦に並んだ二人掛けシートに納まってしまえば、電車ほどパブリックスペースではないので、バス通学は私の性に合っていました。  亜寿美ちゃんとは朝も大体同じバスで会えたし、帰りは毎日一緒に帰りました。私たちは休み時間も腕を組んで学校の廊下を歩き回り、ベランダでふざけ合い、中庭のユリの球根に水をやりました。今、どんな本や漫画にはまっているか、土曜日の午後の洋画のラブシーンがすごかったとか、今誰が好きか(私たちの学校には女の子しかいなかったので片思いの相手は大抵女の子です)、お互いのことは何でも知っていました。創刊されたばかりの「マイバースデー」という占いの雑誌を、亜寿美ちゃんはこっそりランドセルから出してバスの中で見せてくれました。表紙がマツザキアケミの息をのむように奇麗なイラストで、私たちはそれを毎月カワリバンコに買って、バスの中で頭をくっつけて読みました。毎朝乗り合わせるお兄さんや、近くの私立学校の男子生徒に「ニラ(たまにこっちを睨むから)」とか「みつひろさん」とか「男おいどん(そういう漫画を読んでいたから)」とか、あだ名を付けて面白がっていました。まあ、普通の11歳の女の子がするようなことです。彼女は私にとって、それまで知らなかった親密な友達でした。
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