バラ窓の下、中庭のユリ

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 一度彼女が自分の家に寄るように誘ってくれたことが有りました。 塾も行かないし習い事もしていなかった私は、母は仕事で居ないし、お手伝いさんは私が遅くなろうと気にしないので、かまわず寄って行くことにしました。  彼女の家は環状7号線から入ってすぐの住宅地にある、お屋敷と呼んでいいような立派なお家。バブルに向かっていく当時の都内の土地は、今から考えると冗談のように高騰していたので、そんなお屋敷は大抵古い家でした。私はそのころマンションに住んでいたので、石垣の塀に囲まれた昔ながらの「洋館」と言うような亜寿美ちゃんのお家がとてもステキに見えました。居間には濃い緑の緞子のカーテンが架かり、本物の暖炉が有って、ちょっと陰気なところも、当時夢中になっていた「秘密の花園」のメアリの部屋みたいと思ったものでした。  家に行きつくまでに彼女は色々遠回りして私に猫を見せてくれました。それは、つまり野良猫なんですが、みんな名前が付いています。グリとグラ、マリとルリ。彼女は一匹一匹特徴と名前を教えてくれました。そして誰にもナイショよ、と念を押しました。彼女は私と一緒で猫が大好きでしたが飼ってはもらえなかったので、こっそり餌をあげていたのです。
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