バラ窓の下、中庭のユリ

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 さて、夏休みが終わると、学校の中庭のユリは休み中に咲き終わり、小さな舟のような形の種の鞘が、茎のあちこちから突き出ていました。 ある放課後、亜寿美ちゃんは「これをつけたままにしておくと球根が育たないのよ」と言って、小さな浅黒い手で、鞘をポキポキ折り取りました。 さて、中庭を挟んで向こうの古い木造の講堂はお休み中に改築され、真っ白な漆喰の壁になっていました。シュロの木の葉陰から小さなトカゲが滑り出て、まだ湿った白い壁をゆっくりのぼってゆきました。私たちは薄暗い通路を通って講堂に入りました。 講堂の中はひんやりしていました。高いところに並んだ大きな窓は、改装で全部ステンドグラスに変わっていました。 それは美しい窓でした。始業式で校長様(母校では校長先生のシスターをそう呼びました)が話したことによれば、それは特別に注文したステンドグラスで、巻き薔薇というのか、ロールパンみたいにくるくる渦を巻く真っ赤なバラが伸びあがった蔦に咲いてる図柄です。日向の窓は鮮やかに、日陰の窓では暗く沈んで、それぞれバラたちは透き通って咲いているのでした。  
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