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ヘクターを止めなければならない。その思いに突き動かされたオズワルドの身体は無意識に動いた。両手で構えた長剣を真っ直ぐに突き出す。繰り出された一撃はヘクターの腹部を見事に貫いた。
「古の……秘術により、我が願いを……叶え、たまえ」
腹部を貫かれてもなおヘクターの詠唱は止まらない。内臓も貫いたのか口からは呪文と共に血が溢れる。
「喋るな、ヘクター。本当に死ぬぞ」
「モニカ・スペンサーに……健やかなる、人生を……!」
床に描かれた魔法陣が淡い光を発す。形容しがたい"力"があふれ出し、部屋が、いや屋敷全体が震えた。
「その願い、聞き遂げた」
姿無き声が部屋に響いた。慌ててオズワルドが辺りを見回すも、声の主は存在しない。
「これが、悪魔の声か」
その声に応じる者はいなかった。ヘクターの体は力なく崩れ落ち、ピクリとも動かない。弟の亡骸を前にオズワルドは苦渋の表情を浮かべた。間違ったことをしたとは思わない。だが、悔やまずにはいられない結末だ。せめて埋葬してやろうとヘクターの体に手を伸ばしたその時、突然ヘクターの遺体から青い炎が燃え上がる。
ヘクターの体だけでは無い。部屋のあちこちから火の手が上がっていた。素人の目でも分かる魔術の炎だ。青い炎は部屋を、屋敷を包まんと燃え広がっていく。
「なんだ、これは」
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