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状況が呑み込めない。しかしこのまま部屋にいてはどうなるか明らかだ。オズワルドは部屋を駆け出し、急いで屋敷を脱出した。
何とか屋敷の門を潜り抜けた頃には、既に青い炎が屋敷全体を包みこんでいた。この屋敷もまた集落からは孤立しており、周囲に燃え広がる心配はない。しかし、瓦解していく屋敷を見るオズワルドは複雑な面持ちだった。
「容疑者は死亡。証拠は屋敷と共に焼失。――これも、お前の計画か? ヘクター」
あのままヘクターを連行した場合、間違いなく連続殺人犯として裁かれ死罪になっていた筈だ。そうなれば命を失った後も不名誉は残る。スペンサーの名を持つオズワルドはもちろん、モニカもまた『殺人鬼の親族』と中傷されたことだろう。
だが全ての証拠が焼失してしまえば事件は迷宮入り。モニカが不名誉な中傷を受けることも無い。
無論、単なる憶測に過ぎない。この火災とてヘクターの予期しなかった禁呪の効果なのかもしれない。だが、オズワルドには彼の意志のように思えてならなかった。モニカの病を癒やすのではなく、健やかな人生を願った彼ならばそこまで考えていたのではないか……と。
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