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「愛娘の命だぞ、救えるものなら救いたいに決まっている! だが、その為に禁を破り、他人の命を奪い、その死すら悪魔に冒涜させるような真似をして良い訳が無い!」
怒りに声までも震えていた。腰に携えた長剣を抜き、切っ先をヘクターに向ける。
「それが法であり秩序だ。善の体現者たる騎士がそれに背くことは出来ん。大人しく縛につけ、ヘクター・スペンサー!」
「弟に刃を向けてまで……いや、娘を見殺しにしてまで法が大事か! 善が大事か! オズワルド・スペンサー!」
二人の男が吠える。ヘクターはローブの袂からナイフを取り出してオズワルドへと斬りかかった。しかし、その動きは素人そのもの。オズワルドには容易くあしらわれてしまう。
「自棄になったところでお前が勝てる訳無いだろう」
戦うことを生業としている騎士を相手に、素人が立ち向かえる筈が無い。それは明白だった。しかしヘクターはナイフを置こうとはしなかった。
「闇に捧げし五つの供物よ。流れし血を啜り、捧げられし肉を喰らう魔のものよ」
対峙したままヘクターの口から呪文が唱えられる。それが何の呪文なのはオズワルドには分からない。だが禍々しい内容はいかにも禁呪と呼ぶに相応しいものに思えた。
「止めるんだ!」
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