第一幕 殺害

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第一幕 殺害

 コン、コンッ  ノックの音が聞こえた。キッチンで夕食の準備をしていた家の主――エスターは怪訝そうに首を傾げた。親戚もいなければ近所づきあいをしようにも近所の家が見当たらない。そんな老婆をこんな時間に訪ねてくる人間に心当たりが無かったのだ。  コン、コン、コンッ  再びノックの音が聞こえた。まるで催促しているかのようだ。エスターは料理の手を止め玄関へと向かった。 「はいはい、一体こんな時間に誰なん……」  不平を漏らしつつ玄関の戸を開けるエスター。その言葉も途中で止んでしまう。玄関を開けた瞬間、彼女の胸にナイフが突き立てられたのだ。心臓を一突き。即死だ。自分が何をされたのかも分からず、エスターは玄関に崩れ落ちた。  玄関に立っていたのは一人の男だった。目深にフードを被った怪しい男。  男は何食わぬ様子で家に入り込むと、玄関の扉を締めエスターの遺体をリビングへ引きずっていく。リビングに置かれたテーブルや椅子などを強引に押し退けると、エスターの胸からナイフを引き抜いた。まだ死んで間もない為、傷口からは真っ赤な鮮血が溢れだす。 「赤き血は誰が為。捧げし血肉は誰が為」  ぼそぼそと篭った声で男が呟く。そして引き抜いたナイフをしっかり握り直すと、エスターの首にあてがい一気に引いた。
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