0人が本棚に入れています
本棚に追加
春になった。少女が部屋を手に入れてもう、これで三年目だ。
カーテンの隙間から流れる眩しい日差しは少女の目に掛かった。
「まぶしいなあ」
ムクッと起き上がると壁に掛かっている時計と手元にある時計の時刻を交互に確認する。
一瞬思考が止まった。
――――十時半?
昨夜も夜更かしをした。母に起こして貰えると思った。いつも通りのことが起こると思った。
くそう、裏切ったなあ、と歯を食い縛りながら階段を降りる。茶の間のドアを開くと台所の方から母の苦しそうな顔が見えた。
「え」
(倒れてる!?)
少女は硬直した体を必死に動かした。
パニックに陥りながら受話器を手にしては震えた手で数字を押した。何回か押し間違えながらもやっとの想いで救急車を呼ぶことができた。
春になった。勢いよく階段を降りる音が聞こえると、襖が勢いよく開ける後が聞こえた。
「おっはよおおお!!」
女性の挨拶と言うより叫び声が家中に響く。
「そんなに大きな声出さなくても起きれるから!」
苦笑しながら母親は言う。
「私のときはこれぐらいのボリュームでしょ?」
「それはあんたがいつまでも起きないから」
女性は赤面しては無言で母親を茶の間に連れていった。
十年前、母親の足は運動器具の下敷きになり大怪我をしてしまったのだ。
口をへの字に曲げてた女性は不器用な猫の手で料理を始めた。時計の針は相変わらずの八時前だった。
最初のコメントを投稿しよう!