あなたはいつもきれいで。

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   綺麗だけど、痛むのが早くて、扱いも気を遣うから嫌いなの。  花束でもらって、自分なりに丁寧に水切りして、花瓶に移したら次の日何輪の花がしゃんとしていてくれるかしらと思うと気が気じゃなくて。  自分には花屋で並んでいるのを見るくらいが丁度良い。  庭先で生きているのなら、もっと安心できるわ。  そう語るから、自分は薔薇の花を贈ったことがない。  そんなことも知らない青い眼の王子は、無防備に薔薇の花を抱えてプロポーズしたと言うことか。 「それは・・・。仕方ないな」 「そうなの。一発でやられたわ」  恋に落ちた、と、幸せそうに笑う。 「私は10歳も年上だし、アジア人だし、本当はアメリカなんて嫌い。彼はちょっと顔が良くて情熱的なだけのただの若造だし、身体が勝負のバレエダンサー。しかも、すでにいくつかの故障を抱えてる。ハイリスク過ぎて笑いが止まらないのだけど。でも、行きたいと思ったの」  薔薇の花びらが、蕾が、ぴんと伸びた葉の一つ一つが、愛を囁く。  恋をしようと、誘うのだ。  信じているのは自分。  信じられるのは、自分の中の、愛。 「あなたのこと、好きだった」  万感の思いを込めて、見上げる。  日本人には珍しく、彫りが深くがっしりとした顔立ち。  大柄な身体に長い手足、そして広い肩幅。  とても男らしいのに、指先と眼差しはとても繊細で、いつも自分を含めた誰かを気遣っていた。 「とても、とても好きだった」 「うん」 「本当に、好きだったのよ?」 「ありがとう。俺も、好きだったよ」  やんわりと緑がかった瞳を細めて、男が朗らかに笑う。  ざわざわざと、雨音とはまったく違う不思議な音が傘布の上から聞こえた。  彼が傘の親骨を軽く掴んで積もった雪をふるい落としてくれる。  いつも、いつも、彼はこうなのだ。  好きでなければ、年下の男で、それも部下に手を出すなんてありえなかった。  これまで出会った中で一番上等な男だと、今でも思う。  社会的地位も家柄も財産も申し分がなく、そして何よりも心の温かい人。  でも。 「でも、もっと愛したいし、もっともっと愛されたいと、思ってしまったから・・・」  私達の中にあるのは、愛ではなかった、と思う。 「・・・そうか」
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