196人が本棚に入れています
本棚に追加
/189ページ
ようやく家のローンが終わり持ち家が完全に自分のものとなってほっとひと安心していた僕は考えた末に苦渋の決断をして妻と一緒に家を出てアパート暮らしをすることにした。話し合いはこじれ続け、僕の両親とは結局最後まで理解し合えることはなかった。
引越し後しばらくの間はお互いに引越しの疲れがとれなかったせいかよく食べよく眠った。
妻も夫婦二人暮らしという七年ごしの新婚生活を楽しんでいるようだった。
そんな環境の激変も乗り越えた彼女だったから大丈夫だと思い込んでしまっていた。
しかし、引っ越ししてから一月ほど過ぎたあたりから妻がおかしなことを言うようになった。
「アパートの下の人の声が聞こえる」
そりゃ、RC構造のマンションじゃないし、夏場だから窓も開けっ放しだ。外の音など聞こえて当たり前だ。
もともと被害妄想気味で人の言動を気にする妻は他の住人の自分の言動に敏感になっていたらしい。そう思っていた。だから何気ない普通の内容も自分への非難の言葉と受け取ってしまっているようだと思っていた。
そんな妻の被害妄想はそれまでにもあったことなので、やっぱり出たかと思いつつ、そんなことはないよと否定し続けた。
やがて妻は盗聴器が仕掛けられていると言い始める。
階下の人たちが自分の話した言葉を繰り返して言うというのだ。
妄想である。
そう思った。
だからすぐさま否定した。
最初のコメントを投稿しよう!