20XX年9月16日(火)

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俺は今まで、じいを慕い、恋に落ち、ひたすら彼からの愛を強請ってきた。主従契約が解けず、愛の言葉を聞くことはできない、というその一点に絶望して、彼を置き去りにした。俺は今まで、じいのアンドロイドとしての生き様を、考えたことがあっただろうか。じいの幸せを願ったことが、あったのだろうか。 俺がこれまで、純粋にじいのためにできたことはただ一つ。じいの好きな恋愛小説を書いて、いつかそれがじいの心をあたためることを祈った。小説を書く時だけは、私利私欲なく、ただじいが喜ぶことだけを願っていた。俺にできたのは、ただそれだけだ。 「親父。」 緊張で、声が掠れた。 「じいが俺を主として思い出せなくても構わない。いや、記憶がまっさらな状態になっても構わない。三度目のオーバーホールをさせてくれ。俺は、小説家の田川さゆりとして、あの人の……友人になりたいと思う…。」 「そうか……。それでいいんだな、流雅。」 「はい。俺は一度、あの人を手放してしまった。それ以上の後悔は、これから先、二度としない。俺は、あの人が一日、一日を幸せに過ごせるよう、全力を尽くすよ。」
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