20XX年9月15日(月)

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来客を告げるベルの音と同時に、トン…トン、トン、と玄関のドアをためらいがちに叩くノックが聞こえたのは、ちょうどわたくしが玄関口で朝の日課である靴磨きをしていたときでした。 「はい、どちらさまでしょう?」 そう声を掛けながらドアを開けると、身長百八十センチほど、がっしりとした体つきの男性が立っておられました。ご年齢は六十歳前後でしょうか、白髪混じりとはいえ、つやのある髪をさらりと後ろに流した、ダンディなお方です。黒縁のウェリントンタイプの眼鏡が知的な雰囲気を醸し出し、大変お似合いです。 「朝早くから申し訳ありません。昨日、隣に引っ越してきましたので、取り急ぎご挨拶にと思いまして。」 その方は軽く頭を下げながらにこりと笑みを浮かべました。彫りの深い精悍なお顔立ちですが、笑うと目尻が下がるのですね。目尻や口角にしわが寄ると怜悧な雰囲気が薄れて愛嬌のあるお顔立ちに。ああ、どうしましょう。私の好み、どストライクでございます。思わずぽおっと見惚れてしまいました。いけない、いけない。あまりぶしつけに見つめて、困らせては…。何せわたくし元執事でして、キッと睨みつけると使用人たちが震えあがるほど視線が鋭く…いえ、少しウソをついてしまいました。睨むとどうも目が潤むらしく、これは何とかしなければ、と周りをおたおたさせてしまうようです。それでピンチを切り抜けたことが何度あったか…。あ、意識があさっての方向に飛んでおりました。きちんとお返事しなくては。
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