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「東京消防庁のヘリは風速制限を越えていて飛べないそうです。台風の風速予想から、ヘリを飛ばせるのは明後日の朝以降との事です。」
孝道は目を見開いた。
「先生、それは・・」
「まだ、望みが無い訳ではありません。東京消防庁が現在、自衛隊の救難隊に要請してくれています。もし自衛隊が飛べないとすると、非常に深刻な事態となると思います」医師は続けた。
「由美さんの血管は明日まで持たないと思います」
孝道は複雑だった。
「自衛隊に助けてもらうしかないのか・・」
でも、それが最後の希望だった。
診療所の電話が鳴る。米山医師が話をしている。そして・
「百里基地の救難ヘリが飛んでくれるそうです。今すぐ離陸して、三十分程で、ヘリポートに着きます。奥様を救急車に乗せてヘリポートで待機しましょう」
米山医師は由美をストレッチャーに載せて、診療所の救急車に乗せてくれた。
十五分程で、利島ヘリポートに到着したが、雲は低く垂れ込め、物凄い風と雨だった。
「こんな天気で、ヘリが飛べるのか・・・?」孝道は思ったが、もう祈るしかなかった。
予定時間の三十分を過ぎても、何も見えなかった。
不意にヘリコプターのロータ音が聞こえ、雲の中から着陸灯を点灯した白とオレンジ色に塗られたヘリが現れた。
孝道は涙を流した。(こんな悪天候で来てくれた!)
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