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事務所から出て、また8階までの階段を降りて、やっとのことで自転車の荷台に工具を括り付ける。疲れないとはいえ面倒な作業だ。
この身体でも、自分の筋力の限界を超えて運べたりはしない。その点ではテロスがあの日で良かったと感じる。老いた身体ではこう動き回る仕事は出来なかっただろう。慎重に厳選した適当な工具と部品を持ったことを確認した私は出発する。今日の現場は都心部にあり、比較的近所にあると言えた。
正直に言うと、仕事には数本のベルトにさせるような工具さえあれば事足りる。
それ以上の故障は私の知識と技術ではどうにもならないからだ。実を言うと私は例の日、入社二年目だった。しかも営業職。その時点の知識と職場に残された資料の付け焼刃で機器修理を行っているのだから、なんなら自転車の点検修理のほうが上手いかもしれない。
本来の職場だったなら一瞬でクビだろう。規格外の部品どころかその辺に放ってある自動車や機械をばらした部品を使って修理しているだなんて、始末書何枚分になるのか不明だ。大企業らしくコンプライアンスにはうるさかった。
むしろ、一人取り残されて、今なお修理出来ていることを褒めてほしい。
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