仕事 - 3

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仕事 - 3

 いきなりのご挨拶だ。  辺りを見渡しても私以外には何もいないし、危なそうなものも何もない。見えるのはいつもの高層ビル群のみだ。  もう一度彼女のほうを見ると、怪我をした状態で大声を出したからか、へたり込んでしまっている。このまま通り過ぎても良いのだけど久しぶりの、自分に声をかけてくれた人間だ。どうせならば、声をかけてみよう。 「どいうお、な。」 「え?」  久しぶりに初対面の人間へ声を出したせいで上手く話せないことに赤面する。そういえば、最後に知らない人と話したのはいつだったか。高熱の彼と話してはいたが、こうして少しの緊張感を持って話しかけるのは数年ぶりだ。情けない、声の音量調節すら上手くいかないなんて。 「もしかして、お前も発狂しているのか。」 「いあ、まて、だいじょーぶ。」  何度か発声の練習をしてから、まだへたり込んでいる彼女に向き直る。 「久しぶりに初対面の方とお話ししたものだから、話し方を忘れていただけです。」 「まともじゃない、十分おかしいじゃないか。」  確かに仰る通り。第一印象を躓いたせいで彼女はこちらへの警戒を緩めてくれない。近寄ってみればなかなか気の強そうな顔立ちをしているから、元々の性格もあるのだろう。 「その怪我、どうしたのですか。」 「殴られた。警察を呼んでもこないし、どうなっているんだこの街は。都市機能がまるで残っていない。」  この一言だけで、この人が今までどこか、世間から離れたところにいたとわかった。 「都市機能が失われてからもう何十年も経っていますからね。別に殴られても問題はないでしょう。この身体です、一日もすれば元に戻ります。」  とはいえ、血まみれで放置するのも良心が痛む。手元の布を裂いて彼女の頭に巻きつけてみる。機器の油だとかをぬぐうための綺麗な、貴重な白い布だ。少し油染みが付いているが雑菌が侵入するより早く身体治るだろうし、そもそも病気にかかるほど免疫系は動いていない。気にせず巻きつける。不器用なものだから鉢巻みたいになってしまい、どこか応援団や軍事行動中みたいになってしまったが、まあ許してほしい。  一連の作業中、彼女はとてもおとなしくしていた。いや、話してはいたようだが全く聞いていなかった。 歳をとると、物事の興味関心が失われていくのだから、全く困ったものだ。
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