1人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女もそんな宗教家の一人で、何らかの使命を帯びているのだろうか。だとしたら早めに立ち去った方が良い。
「それでは、私はこれで。」
「お前はこれからどこに行くんだ。」
男口調のその女は無遠慮に呼び止めてくる。初対面にお前とは、同年代に見えるとはいえ失礼ではないか。少しむっとしながら答えてやる。
「仕事ですよ。早く行かないと今日中に作業が終わらないかもしれません。」
「さっき久しぶりに人と話したって言っていたよな、仕事って、何をやっているんだ。」
「機器の修理ですよ、壊れた自社製品を直してまわっています。」
「それだけか?」
こいつは何を言いたいのだろう。
「えぇ、それだけですよ。貴女には退屈な仕事に見えるでしょう。」
呆れたように首を振ってみせる。言外にもう黙れと示したつもりだったが、伝わっていなかったらしい。
「誰もいない場所の?」
ついに、彼女に指摘されてしまった。
「ええ、そうですね。」
「それをして何になるんだ。誰もいない場所のものを直して。使っている人がいるわけでなしに、何のためになるんだ。」
ああ、ついに。いつか誰かに言われると思っていた。
自分でもわかっている。
私は毎日、壊れた機械を、誰も使わない機械を直してまわっている。故障の信号を自動で取得するリストに沿って、毎日自転車を走らせている。
最初のコメントを投稿しよう!