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特に意味はない。誰のためにもならない。誰にも望まれていない。これは仕事と言えるのだろうか。
「仕方ないじゃないですか、こうでもしないと、自分の存在価値がわからないのです。」
努めて淡々と、少しおちゃらけた口調で話す。いつもこうだ。淡々と、第三者の批判する視点で考えることでしか、自分の心に向き合うことが出来ない。そうでもしないと、感情に負けてしまう。あのビルから落ち続ける人たちの気持ちがよくわかるのに、意味がないと断じて思考を放棄することしか出来ない。
他の道があるなら示してほしい。この気持ちを誰かに相談したい。解決しないならば、いっそどこかへ行ってしまいたい。
そんな内心を初対面の彼女にぶつけるわけにはいかない。迷惑だろうし、自分が恥ずかしいから。
「ああ、そうなのか。聞いて悪かった。」
彼女はあっさりと引いた。初対面の人間に対して、真っ当な反応だ。
本当は引き止めてほしい。もっと貴女と話してみたい。
そっちに行っちゃいけないとはどういう意味だったのか。なぜ貴女は殴られたのか。何でこの状況を、世間を知らないのか。
私がもう少し素直だったら、勇気があったら、そう聞けたのだろうか。
「じゃあ、もう私も行くよ。」
ふらつきながら彼女が立ち上がる。出血が止まっているようには思えない。
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