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「ヴィクター・フランケンシュタインという言葉でわかるか?」
「ああ、なるほど。」
フランケンシュタインは死体を継ぎ接ぎして人智を超える理想の人間を作ろうとした。現人類は腕の一つや二つ、頭部に至るまで提供することが出来る。テロスの日以前の科学でも医療移植技術から鑑みるに、継いでみることは容易だろう。それが試験管の細胞培養による養殖物であるか、天然物であるかの違いだ。
「継ぎ接ぎするにしても培養した方が良くないかな? 人間の手足は、いわば中古品でしょう。」
「そこまで」
彼が語るところによると、ヴィクター工学は究極的には、現人類の身体の可能性を測ることを目標とした学問体系なのだという。テロスの日以降、学者界隈を賑わせていたらしい。
「それにしてもよく知っているね。」
「働いているお前とは違って、世界の研究は基礎分野を中心に発展している。要はアンテナの張り方だ。お前はそれが下手すぎる。」
この男は働いているという言葉を遊んでいると同義に使う。間違いではないのが忌々しい。長い付き合いだけあって知り尽くされていることも癪に触る。
「上方大学の雄と呼ばれたお前はどこに行った。」
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