仕事 - 1

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 仕事中はスーツより作業着の方が便利なのだけども、習慣でスーツを着てしまう。スーツも貴重だ。私の身体はどうでも良い。怪我は直ぐに修復され、元の身体へと戻る。だがスーツや道路は古びるのだから優先順位でいったら身体の方が下になってしまう。  何やらどんどん思考が人間離れしていっている気がする。  パソコンが起動して今日の顧客リストを確認する。弊社製品の納入されていて修理が必要な場所の一覧は問題なく表示された。次に、今日もパソコンも顧客リストも動作することに安堵する。この二つが仕事始まりの一連の儀式だ。  この地域の電気がまだ使えて、地磁気による位置取得が問題なく、顧客リストが更新される。その事実が嬉しくて仕方ない。 複数のシステムが組み合わされて動いているこの顧客リストへアクセス出来るということは、きっと世界のどこかには私みたいな、踏ん切りがつかなくて働いている人がまだいるのだろう。インフラの維持に顧客リストの更新、情報サーバーの更新、いったい何人が関わっているのかは知らない。いつか会いに行ってみたいものだ。  今日の顧客は一件だけだった。春の時期にはとても珍しい件数だ。黄砂や冬から春への寒暖差で故障する機械も増える時期だってのに。働いていた時期は機械や人が活性化する夏や冬が故障の増える時期だったのだが、時代は変わるものだ。  早めに済ませて帰ろう。こんなに気持ちが落ち込む日は、出来るだけ何も考えたくない。帰って茶でも飲もう。     
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