第一章 ツクモノと轆轤首

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 それから私達は、自然とお互いの話をしました。  彼女の名前は轆轤(ろくろ)(くび)と言うらしく、人間達がいっぱい住んでいるこの町に一人、妖怪として自由気ままに暮らしているらしいです。  それもどのくらいこの町に暮らしているのかと言うと、驚くでなかれ約二百年! 言わば、私の妖怪大先輩ってところですかね。  因みに妖怪と言う生き物は、人間よりも長く生きるらしいです。なので彼女は人間社会に溶け込む為に、住居の方も転々としているようですよ。  それにしても、 「お婆ちゃんが三日前に亡くなっていたなんて……」  まさに私の中の話題はそれで持ちきりでした。  轆轤首さんが言うには、お婆ちゃんは出掛け先の病院で亡くなったそうです。だから今日お婆ちゃんの家に来ていた怪しい二人組も、連絡が途絶えていたお婆ちゃんの子供さん達との事でした。  彼らの目的はあくまでも、お婆ちゃんの遺品整理だったらしいです。  けれどあれは見るからに、遺品整理と言う名の窃盗ですよね。ああ言う時に限って、御子息面するのはどうかと思います。 「けどな市松人形ちゃん、今回の件でよくわかっただろ。別れってのは妖怪になっちまった以上、必然的に経験するものなんだよ。何せ妖怪には寿命がねぇからな」  そんな事わざわざ言わなくたって、お婆ちゃんの先があまり長くなかった事ぐらいわかってましたよ。何せ大好きなテレビを見ている時、得意の手芸をしている時、時たま苦しそうな咳をしていたんですからね。  だけど私は認めたくありませんでした。  お婆ちゃんがこのまま居なくなってしまえば私と言う存在が、お婆ちゃんの子供さん達が言う、ゴミと同じになってしまう事を。これも定めと言うやつなんでしょうか。  もう少しだけでも長くは生きてくれなかったのかな。話を聞いて芽生えてしまったその感情に、私は自分の事ながらも怒りを覚えました。  どうして私はこうも自分勝手な事を考えてしまうのかなって。これじゃあ根本的に、あの子供さん達と考え方が同じじゃないかって。 「問題はな、その経験を如何にお前が耐え忍ぶかって事だ。それが出来なきゃお前はずっと、精神的な破滅へと突き進んじまう」  確かに轆轤首さんの言う通りです。私はもうただの市松人形ではありません。妖怪として生まれ変わった、動く市松人形なのです。  人と関わる道を選べば当然付きまとってくる別れーー。これを耐えずして、私はこれからの一生どう生きていくのでしょうか。  だとしたらお婆ちゃんとの別れこそ、私が妖怪として生きていく為の通過点だったんだと考えるべきなのです。彼女の言葉は伊達に長い事生きてきただけはあり、それを私に気付かせるには十分でした。 「ま、市松人形ちゃんはまだまだこれからだしな、取り敢えずは落ち込み過ぎるなって事よ。にしても市松人形ちゃんって呼びにくいなぁ」  それは私も同じ意見ですよ。彼女の話題の変え方も急だとは思いますが考えてもみてください。市松人形ちゃんってそのまんま過ぎませんか。なんならせめてここに住んでる間だけでも名前を付けて呼んで欲しいですよ。  なので私は、その胸を轆轤首さんに打ち明けてみる事にしました。 「だったらその……轆轤首さん! よろしければ私の新しい名前、考えて頂けないでしょうか?」
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