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オナモミが脚絆につく。
茂った木々の合間、開けた道が没しそうな陽に陰っている。
もう直にその存在すら、失せてしまいそうだ。
風が、葉を揺らしている。
おぉ、おぉ、と風が哭く。
森のどこかに空洞がある。
それが風に撫でられて、人間の囁くような音を発する。
『イツマデ』
睦は背筋を正し、りん……、鈴が鳴る。
『イツマデ』
風の音が人の声に聞こえる。
道をたどる。
その先には黒煙が立ち上っている。
視界が開ける。
焼かれた村が目の前に広がる。
『イツマデ』
風の声か。鳶の声か。人の声か。
「土蜘蛛狩り」
睦は呟いて左目だけの視界で人の営みと我欲の成れの果てを見た。
空には上弦の月が薄闇の訪れを告げている。
燻る火にいぶされた遺骸はまだ熱い。
その黒焦げに炭化した皮膚がはらはらと剥がれ赤色が覗く。不躾に触れた非礼を侘びて睦は炭化した仏に合掌する。
ぱん、
木の踏みつけられて爆ぜる音。
前髪を左側だけ払い睦は音の方を見た。
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