妖艶

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 後ろから項に噛みつくと彼は身を反らした。突き出された胸から腹へと続く曲線が明かりに縁取られて陽の光のように白い。  その頂きにある米粒程の突起を弾くと、彼は体を戦かせ、ひくと喉を鳴らした。長い髪が顔に、胸に垂れてはそこを擽る。  道ならぬ恋をしている。  その自覚はあった。しかし、短時間でこんなにも、こんなにも好いてしまうことなど考えもしなかった。  彼は唇を噛み、必死に声を殺す。  上体を抱き寄せ起こさせると繋がりが深くなる。身を起こした彼はいっそう体をくねらせ、悶えた。  後ろ向きに抱えたまま、脊椎を吸う。浮き出た凹凸ははっきりと形を露にし、私の膝に座った彼は苦悶だけではない感覚に当惑していた。強張りながら見返る、その唇を吸う。  肌はしっとりと柔く濡れ、熱く滑らかだ。  ぼんやりとした清浄を汚している心地になる。  彼は声にならぬ声で嬌声を発し、息絶えたように私の胸に凭れた。  汗ばんだ額は艶めいて陶器を連想させる。白い脛は長く、身の丈は私より高いだろうか。  元より私も短躯ではない。東京にいた頃は数多居るなかでも頭ひとつ抜きん出るほどだった。  しかし、彼はそれ以上だ。  じりと、胸が焼ける。  『土蜘蛛狩り』  自分がここに来た理由を、忘れそうになる。  強く、彼の華奢な肩を抱き締めた。  息を吹き返すように目を開いた彼は、私を見て、柔らかく笑う。  ―――土蜘蛛は、いない。  その無垢な笑顔に私は願いに似た結論を出す。  ―――ここに、土蜘蛛はいない。
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