記憶の片隅の彼女へ

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「うん、確かに言われてみればそうかも」 「秋の空も好きだけど、夏の空の方がカイホウ感があるから好きなんだ」  それから二人で、高いね、青いねと言いながら見上げて数分の時間をすごした。  この会話をした記憶だけはどうしてかよく覚えている。他の記憶はほぼないに等しいのにも関わらず。これは彼女の代名詞的なエピソードの一つだ。この会話をしてからおそらく四回の夏が過ぎた。夏が来る度、高い空の青を見る度に思い出す。私は環境も人間関係も考え方も色々と変わってしまったし、彼女だって同じように色々変わってしまっただろう。私は覚えていても彼女は些細な会話だったので忘れているかもしれない。それでも構わない。 けれども。私は彼女に会ったら言いたいことがある。夏の青の下、そっと心の中で呟く。 「あの時は空があまり見れなかったけれど、今は空を見ることができるようになったよ」  それは、届かないからこそ心の中で呟く。けれども私の中で強く息づいている。  空が高いとあの時思えたのは彼女のおかげで、果てしなく高く、青に染まった地球の天井が今更になって綺麗だと思えたのもまた彼女のおかげ。  そんな素敵な彼女。未来を見据えて自分のなりたいと思える道を貫いたのだろうか。  もう会えるかどうかはわからない。もしかしたら街中で会えるかもしれないし、会えてもお互い顔つきが変わってしまったかもしれないから会ってもわからないかもしれない。  せめて最後にこれだけは伝えたい。 「素敵なことを教えてくれて、ありがとう」
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