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カン。
主は火鉢の縁で煙管を叩いた。
一連の騒ぎは不逞の輩が持ち込んだ香の中に麻薬が混じっていたということで片が付いた。
朱楼舘は被害者となり、下手人はその場で死んだことになった。
事実ではあるが、それは少し異なっていた。
「起きませんね、」
「ああ、起きないね」
刻み煙草を丸めて再び火を挿し、主はこまりとその傍らに敷かれた布団に横たわるムゲンを見た。
ムゲンの刀は枕側に置かれている。睦を斬った刀だ。
主は火鉢の縁に煙管を立てかけると、こまりの前に座し、袖を払って指を付いた。
「誠に、申し訳ない」
「玖様、何を……」
「『玖』ではない」
額が、揃えた手の甲にまで付きそうである。
低く頭を垂れられたら、こまりは困惑してしまう。
「そして、私が頭を垂れるのはあの夜のことではない」
すいと、主の背が伸びる。
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