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ムゲンの絶叫をただぼんやりと聞いていた。
「やっぱり、目に出たね」
主は姿勢を正し、火鉢に向かった。
平素と違うのは煙管から、火箸に持ち直した右手だった。
呆けたまま、ムゲンをみていた。主は赤々とした炭火に火箸を突っ込み凝とムゲンを見ていた。
「なにが」
「ムゲン殿は目からこまり様の『記憶』を喰うた。前の睦は傷を受けた手から記憶を食っていた。」
こまり様、
父とも母とも違うが、確かにあたしを育んできた者に呼ばれる呼称としてはなんと不自然で余所余所しく寂しいものか。
父母よりも、余程、、
はて、あたしに父母はあったろうか。
あたし、あたし?
「あぁぁぁあ!イヤだ!イヤだ!!なんで俺ばかりが!嫌だ、もう、客は取りたくない!嫌だ、痛い!いたい……」
「呆けてる場合じゃないよ」
いつもと同じ声で主は、ひまり様は言う。
ひまり、
主の名は、ひまり。
俺に、名をくれた人。
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