7/4 夕景

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

7/4 夕景

夕陽が空を血溜まりのような色に染めたまま時間が止まっていた。おれは荒野に一人で立っている。足元には無数の死体が転がっている。みんな、血だらけだ。頭を掴んで起こしてみないと誰が誰だか分からない。 おれが殺したわけではないが、おれの手にはシャベルがある。おれはいわゆる報連相が苦手だった。報告、連絡、相談。中でも相談が苦手で、その時間を使って一人で終わらせた方が早いと、トラブルや面倒事、何もかも一人で終わらせるようにしてきた。今もまるでそのようだ。 これまでにもたくさんの穴を掘ってたくさんの死体を埋めて来た。手当たり次第埋めながら荒地を進んできたが、地平の果てまで死体が転がっている。いつまで経っても夕陽は沈まない。急かされている雰囲気はなかった、なぜならこの悲惨な光景、もはや自分以外に誰か居るとは思えなかった。夕陽は爛々と輝きながらずっと頭上にある。いつも時間を監視し、夕陽の描くハリボテのような赤丸の向こうからこちらを観測しているものすらもう居ないだろう。 全身を火傷したような死体の数々の顔を埋める前に確認すると、知人から他人まで色々だ。友人もたくさんいた。何が起きたのか、彼らが何をしたのかは知らないが、死んでしまっていることは確かだ。 ほとんどの人間はチームワークを重んじた。裏切りは許さず、死なば諸共。きっとおれが一人で何かしているうちに、この世を滅ぼすような戦禍があったのだろう。自分がいる場所も何処なのか分からないが、そもそも原形をとどめていないから考えても意味のないことだろう。夜になれば休めるが、夕陽を沈める役を担って居たものもいなさそうだ。夜の直前の一番明るい時間で止まっているうちに、おれはまた一番近い足元に穴を掘り始めた。ドロドロになった両腕で、ドロドロに溶けた死体の膝と背中から折り畳んで縦穴にそっと入れていく。 一人で、誰にも邪魔されることなく、協調性のなさを非難されることもなく没頭できるのは、有り難かった。夜がいつ訪れるか分からなかったが、そんなことも苦ではなかった。永遠に終わらないとしたら、それもそれでよかった。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!