1、冷たい依頼

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僕はいつものように部屋で本を読んでいた。 最近買ったアンティークの椅子に座り、淹れたてのコーヒーを一口飲んだ。 ああ、落ち着く。 その時、部屋の扉が大きな音を立てて開かれた。 僕は溜息をつく。こんなことする奴は1匹しか知らない。 「おい、むっつり紳士。顔無し仮面って知ってるか?」 この部屋に頻繁にやってくる助手のような存在、狼一(ろういち)。人狼だ。 「僕はむっつりじゃない、オープンだ。やろうと思えば公共の場で堂々とエロ本だって読める」 僕はどや顔でまたコーヒーを飲んだ。 「それはやめろよ。てか、本題はそこじゃねぇ。顔無し仮面のことだ」 「知っているさ。だって、僕がネットで広めたんだから」 「はぁ?」 信じられないというような顔で見てくる。 「しかし…少し広めた内容と変わってしまっているな。現れるのは怪異の前だけ、と書いたはずなんだが」 「そんなの人間は噂話なんだから改変して、改変して、おもしろくしていくだろうよ」 狼一は勝手にコーヒーを淹れ始めた。 「そういや、手紙来てたぞ」 狼一は1通の手紙を見せてくる。 「お前、そういうのは普通一番始めに言うべきじゃないのか?」 「まぁまぁ、いいじゃねぇか。はい、お決まりの大家さんからのラブレター」 僕の読んでいる本に手紙を挟めてきた。 「何がラブレターだ、どうせ家賃催促の手紙だろ。捨てとけ」 「いや、家賃は払えよ」 「お前が払え。…いや、待てよ。前にあいつの見たい番組を代わりにうちで録画したことがある。よし、お前代わりに払っとけ」 「話の流れ!今絶対録画したから家賃チャラにしてもらう流れだっただろ!」 「そうよ、払いなさい!顔無月(かおなづき)!」 新たな声が勢いよく開かれた扉の向こうから聞こえてきた。 僕はちらりとそちらに顔を向け、想像通りの人物にため息をついた。 「ため息つきたいのはこっちなんですけど?」 大家に本を取り上げられた。 「わざわざ家賃を取りに来たのか?残念ながら最近は依頼がないから金はない」 「妖怪とか異形関連の依頼しかしか受け付けないから金がねぇんだよ」 「あんたのガラクタだの本だの売ってお金にしなさいよ、と言いたいところだけど、あんたたちに仕事を持ってきてあげたわ」 「ほう」 数か月ぶりの依頼か。楽しみだ。
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