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「どうぞ」
扉から長い黒髪の女が入ってきた。肌は白く透き通り綺麗だった。
…寒い。
「じゃ、あとは任せたから」
大家はそう言い両腕をさすりながら足早に部屋を去っていった。
「どうぞ」
狼一は女にコーヒーを出し、僕の隣に座った。
「お名前は?」
「寒女雪乃(かんめゆきの)といいます。大家さんにこちらで怪奇現象とかを解決してもらえるって聞きました」
「まぁだいたいはそんなものです。僕は顔名月無黒(かおなづきむく)と言います。こっちの獣は狼一です」
僕は営業スマイルで自己紹介した。狼一に腕で小突かれる。
「獣言うな。俺は噛尾狼一(かみおろういち)っていいます。よろしく」
雪乃が頭を下げたため、狼一もつられて頭を下げる。
「で、ご用件は?」
「私の兄を助けてください」
「はい?」
「ちょっとストップ」
僕は話を止めて、隣の部屋から毛布を持ってきた。そして季節外れの暖房を入れた。
「寒い、寒すぎる。ああ、どうぞ続けて」
「すみません、私のせいなんです」
「いやいや、全然雪乃さんは悪くないですよ!急に冷えてきただけですから」
「違いますよね。雪乃さんが、寒さの原因ですよね?」
おい!と狼一は僕の胸を小突いてきた。
俯いた雪乃はコーヒーに手を伸ばした。熱々のコーヒーの湯気はなくなっていた。僕たちのコーヒーはまだ、湯気があるのに。
「はい」
「理由をお聞かせください」
雪乃は頷いた。
「この町の観光名所でもある洞窟、『氷の洞窟』はご存知ですよね」
「ええ、まあ。行ったことはありませんが」
氷の洞窟、一年中氷が融けない洞窟で有名な場所だ。全国各地から観光客が多く来ている。
まったく興味なくて行こうと思ったこともないが。
「その洞窟の、一番奥にある、一番大きな氷柱。昔から噂でその氷柱に石をぶつけると願い事が叶うと言われているんです」
「あー結構前に流行ったな。それで石は投げないでくださいって看板立ったり、一番でかい氷柱に行く道封鎖されたもんな」
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