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 それに違和感を感じ中に入って確かめる。  ランドセルの内側が傷だらけだった。  なだれ出てきている教科書やノートも傷やイタズラ書きが見受けられる。  秀忠はそれらを元通りに整え部屋を出た。  泣いてしまいそうだった。  春美がどんな辛かったかと思うと胸が詰まる。 『何で言わなかったんだ!』  そう思いつつ自分も母に言えなかったな、と辛かった日々を思い返した。  そして階段を下りつつハッとする。 『あの5万があれば眼鏡もランドセルも新しく買えるのに!』  秀忠は反射的に電話していた。 「はい。榊探偵事務所」 「あの、先ほど伺った初瀬ですけど」 「はいはい」 「依頼取り消します」 「……着手金は返せませんよ」 「はい。すみませんでした」 「そう。じゃ、またのご利用をお待ちしてますね」  秀忠はこれほどに後悔したことはなかった。  目の前が見えていなかった。  母がいなくなって自分がすべきことは自分の気休めなんかじゃない。  妹たちを守ることだ。  妹たちを笑顔にすることだ。  父親のことは知っても知らなくても何も今は関係ない。  春美と夏美が平穏な日常を取り戻し、独り立ち出来るまで父のことは一旦忘れよう。  秀忠はそう決意した。  一階のエントランスで店に入る前に秀忠は郵便受けに目をやる。  中を確認すると、奏のDNA鑑定結果が届いていた。
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