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 その後、入れる時間や曜日の話をし、様子を見て人手が足りるようなら入る日数を調節させてもらうかもしれないという条件付きで秀忠は雇ってもらえることになった。  話がまとまって秀忠が席を立とうとすると店長が言う。 「昼飯まだやろ? 食べてき」  秀忠の目は輝く。だがそういう訳にもいかない。 「妹たちが待ってるんで」  あぁそぉか、と店長は厨房に向かった。  アキが待ってて、とどこかいたずらな笑顔で言う。  しばらくすると店長は戻って来て紙袋を秀忠の前に差し出した。 「朱海さんにはお世話になったんや。恩返しって大そうなもんでもないけど、ま、家族で食べに来てや」  紙袋は温かった。  秀忠は中を確かめたい衝動にかられたが、失礼な気もしてグッとこらえ、はい! ありがとうございます! と大きく返事をして店を後にした。  その残像を見つめてアキがおもむろに言う。 「お世話になった方の息子さんだったなんてね。後姿が孝行そっくりだったんだ。初めて出会った頃の、高校生の孝行がそこにいるみたいで思わず声かけちゃった」  店長は秀忠が出て行った扉を見つめたまま、うん、と心ここにあらずな返事をした。 「顔はオカンそっくりやけどな」
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