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「終わったぞ」
聞き慣れた声に驚いた。羽多ちゃんと道を分かつことはあるだろうけれど、深海さんはそう簡単に見捨ててはくれないだろう。そのはずだ。例え彼が何者で、僕が何者かずっと分からなかったとしても。
「なんだ、そんな捨て犬みたいな顔して。痛かったか?」
傷は大きいだけで浅いから、もうそんなに痛まなくなっていた。どちらかというと、掌よりも、よく覚えのある感覚、心臓の痛みが襲ってきた。部屋を暖かくしていたが指先から冷たくなっていった。一体どうしたのか、と問いかけられても分からないとしか言えない。熱でもあるのか、と首に触れた深海さんの手はカーテンの隙間から見える空の色と同じように恐ろしく冷たかった。
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