#5 無知

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「何?なんかあっただろ」 「いえ、何も」 「そうか」 この季節になり、僕が体調を崩すに連れて、彼は気を遣い少しだけ饒舌になる。送り迎えだなんていうのも過保護ではあるが、いつ僕が、去年もあったように、冬眠のような状態に陥るか分からない以上、深海さんの観察眼はより一層細やかに張り巡らされていた。 どうしても、さっきから何かに声を阻まれる。彼に進路のことを相談できない。分からないと一蹴されるのが怖いか、そうではない。むしろ、どこの大学がどうで、将来的にはこの学問で、と教科書的な返答を彼の口から聞きたくないと思ってしまう。 暗いアーケードには、靴屋、服屋、薬屋、本屋、いろいろな職業が並んでいる。普段は気にも留めなかった風景に頭を圧迫されるようで、俯いて通り過ぎた。 この世界で数少ない、信頼に値する彼には、少しだけ狂っていてほしい。それは他ならぬ僕自身が、もしかしたら狂っているかもしれない、という突如生まれた閃きのせいだった。 足元が石畳になれば、アパートのある住宅街に入れる。辺りは真っ暗で、深海さんは懐中電灯を手に、肩が触れるくらいの距離で歩く。 不意に照らされた向日葵畑は、無残にも腐った太い茎だけになって、ただ冷たい風と永久に乾かない泥の中に立ち尽くしていた。
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