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#6 がらんどう
「夏野、白紙はちょっとなあ…」
職員室は暖かくて、眠くなる。外に広がる灰色の世界とは遮断されている。そういう安全な風にできている箱の中で、僕はまた不安要素と成り果ててしまった。
「顔がぼーっとしてるぞ。最近居眠りも多いようだし、気を引き締めろ」
「すみません」
昼休みに、職員室に呼び出された。もちろん、白紙で提出した進路希望調査書について呼び出されたのだ。結局誰にも相談できず、一つの答えも出なかった。意識が不鮮明なまま、23時直前になんとか筆を取ったが、その直後から記憶がなく、提出した時に名前すら書けていなかったのが見えた。
「ネットで調べりゃ幾らでも出てくるから、適当に埋めることも出来るだろう。大学に行きたくないなら就職って手もあるし、それ以外で悩みがあるなら相談してくれれば…お前の悪い癖だぞ。いざという時に、出来ません、分かりませんとばかり言ってたら、この先困るぞ」
言葉の一つ一つが、頭を殴ってくるようだった。そんなこと言われたって。それを打開する能力が僕にはない。相談するための状況をまとめる事ができないくらいに身辺のことが曖昧で、羽多ちゃんにも深海さんにも出来なかった。この人に話すことは何もない。
「まあ今回は、時間も少なかったことだからこのまま受理するけど…そうだな、例えば俺から言えることとすれば、そもそもお前、なんで文系クラスなんだ」
二年生に上がる時に、文理選択があった。文系の科目に重きをおくか、理系に置くか。大学受験へ直に影響する重要な選択だった。僕はどちらにしようか、どちらがやりたいのかその時も決断ができなかった。簡単な二択なのに、ゆくゆくは将来に関わってくると囁かれただけで、僕を戸惑わせるのに十分だった。
それで、最後まで決めかねて。
「単純に、羽多と同じ方を選んだんじゃないか。二人の関係に口出しまではしないが、こんな大事なことまで仲良しで決めちゃあダメだ。単純に成績を見れば、夏野は理系向きだった。その方がお前自身も楽だっただろう」
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