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僕に両親はおらず、このぶっきらぼうで面倒見のいい、深海さんという、遠縁の親戚が面倒を見てくれている。親子ほど歳が離れていないが、隙がなく博識だ。だから彼がやってはダメだと言ったことは絶対に気を付けなければいけないのに、こうして僕は時々バカをやってしまい、掌が痛んで箸がうまく握れない。
「湿気ってるから、うまく燃えるかな」
深海さんがどこかで買ってきた惣菜と、僕も彼も唯一使える炊飯器で炊いたご飯を食べている間、彼が、聞こえるかどうか程度の声で呟いた。
夕食を済ませたあと、僕たちはアパートの狭い裏庭に出て、向日葵の頭に火を付けようとした。やはり泥に浸っていたせいで簡単には火がつかず、とんだ往生際の悪さだな、と深海さんが物騒な言葉を吐き捨てた。花弁の乾いたところに手当たり次第火を付けると、ようやく燃え始めた。火が盛んになってからは早くて、焼けて爛れて小さくなって、灰になったところからハラハラと風に流されていく。アパートはとても静かで、どの部屋も電気が消えていた。二人の間の沈黙に、火が弾ける音だけが溶け込んでいった。
あの黄色かった花弁が炭となり、種が黒い塊になり、残火も消える頃、僕は心に大きな穴が空いたような気分になった。星のない冬の夜空と同じくらいぽっかり空いた大きな穴だ。
「また来年見れるだろ。これ以上ここの土が腐らなければ」
彼はなんの未練もないように踵を返した。僕は地面を手で浅く掘り、燃え滓を埋めた。塵芥の中から、数粒の、まだ形が残っている種があり、ことさら大切に埋めた。夏が死んだ。ちゃんと火葬を執り行ったから、来年もまたきてくれるはずだ。ぼんやりと澄み渡った夜空を見上げ、掌の痛みに気づき、のそのそと部屋に戻った。
課題や翌日の支度を終わらせ、眠る準備は万端になるのはいつも23時少し前で、深海さんはその頃部屋にやってくる。カーテンを隙間なくピッタリと閉めて、通学鞄の中身を見たり、几帳面にアイロンをあてられたシャツをのクローゼットの取っ手にかける。
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