#2 火葬

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「やること全部終わってるな」 「はい」 「手、見せてみろ」 包帯とガーゼ、消毒液を机に置き、皮膚の爛れた部分をすっと撫でられた。思わず手を退こうとしても、物凄い力で手首を掴まれていた。何か言われるかと思ったが、彼は傷をまじまじと眺めていた。深海さんは警察官で、この廃れた街の駐在員だから、土の汚染の具合も気にしていたりするのだろうか。 「これはしばらく痛むぞ」 滲みると訴えても容赦無く消毒液を塗りこみ、手際よく手当てを施された。包帯を巻かれていると、ようやく痛みが少し引くような錯覚に陥った。両手とも、まるで大怪我人のようになってしまった。 「ケータイは?」 はっとして、通学鞄を指差した。深海さんは察して、そのポケットから携帯電話を取り出した。そういえば帰宅してから一度も携帯電話を確認していなかった。深海さんは、学生は携帯電話を見ないとダメだ、お前はよくても。とよく言う。彼の言葉はいつも正しくて、やはり何時間も前にメッセージが来ていた。 「羽多ちゃんから、明日の小テスト忘れてない?って」 「どうなんだ」 「忘れてました」 深海さんは、そうか、と頷き、ちらっと腕時計に目をやった。僕もベッド脇に置いてあるデジタル時計を見た。22:59:59。たった今、23時になった。 「まあ、どうせペン握れないだろ」 「そうかもしれません」 「免除してもらえ。もう寝る時間だ」 自由に動かない手から携帯電話を奪い、鞄の中に戻した。返信もしてないが、何があろうが、ぼくの就寝時間は23時だ。勉強机の鍵がかかった引き出しから、深海さんが注射器と薬を取り出した。 やや青みがかった綺麗なそれは、睡眠導入剤だ。これを注射すると、僕は23:01の文字を見る事なく寝てしまう。いつからかは分からないが昔からの習慣で、なぜかは分からないが両親に口煩く言われており、深海さんも特に神経質だ。必ず23時。彼が注射を打つ。長袖を捲ると、右肘の内側の辺りに注射の痕が密集している。その辺りに躊躇いなく針が刺され、少しの痛み、薬の入って来る生々しい感覚があった。 そのまま流れるように、まるで僕が人形であるかのように、背中から頭の辺りを支え、ベッドに横たえる。そして、意識が途切れる最後の瞬間まで、瞼を閉じても強い視線を感じるのだ。ほんの数秒のことだ。体が宙に浮いたような感覚があって、僕は眠る。深海さんは、それまでずっと、僕を見ている。
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