#4 偏愛

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#4 偏愛

「お前の成績なんか、あの子に関係ないのにな」 夕食を食べながら、深海さんに毎日の出来事を話すのも日課だ。彼曰く、これも僕の親からの頼まれごとらしい。メモを取っているし、成長日記のような感じだろうか。 「その羽多さんって子に、いろいろ話したのはやっぱりまずかったかもな」 「その…すみません」 「絶対面倒なタイプだと思ったから」 羽多ちゃんがそうであるように、深海さんも彼女のことを疎んでいた。僕はいつか、羽多ちゃんとの接触を一切禁止する決まり事ができてしまうのではないかと危惧するくらい、深海さんが羽多ちゃんについて述べる言葉は手厳しい。 「ただ、羽多さんがいなかったら夏野の学校生活は大変だっただろうな。お前がプライバシーを打ち明けたから、あの子もお前を信用したんだろう」 中学以前の記憶が無く、去年の4月7日に生まれたかのような僕が真っ先に直面した不都合は、集団の中での振る舞い方だった。 深海さんが学校について来るわけにはいかないし、友人関係は深海さんとの決まり事には嵌らない臨機応変な対応が要求される。高校生にもなれば、経験を生かして円滑に暮らしていく方法を知っている人が多いから、知らないものが一人いるだけで和を乱す。そういう存在は教室という箱の中では、野放しにしてはいけないことになっており、例えばいじめに代表されるような“牽制”が入る。僕はその標的にされてもおかしくなかったが、偶々あらわれた羽多ちゃんが救ってくれた。
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