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虫も鳴かない暗い夜。
町へと続く田畑に囲まれた一本道を歩く少年がいた。
頭には笠。ぼろぼろの着物と、一目で旅人と分かる出で立ちで、手には美しい三味線を抱えている。
べん
空気を縫うような三味線の音が響く。
「分かってる。」
少年はまるで三味線をなだめるように、三味線の胴を撫でた。
「あいつが近くにいるんだろう?俺たち一族の敵が。」
べべん
少年の言葉に応えるように三味線が鳴る。
目当ての町の明かりが目前に現れてきた。
明朝には着くだろう。
「慌てるな。この仕事が終わったら、あいつの返り血を拭いた手拭い被って踊ろうじゃないか。」
少年の含み笑いと同時に、どこかで猫の声がした。
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