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そんな子供だった私も中学、高校と進み、進路を決めなくては行けない時が来た。
家の跡取りは弟で、私は家に残らなくても良い。
ボロボロになった船舶免許の本をなにか楽しい漫画のように読む弟はあの黒い海が大好きだと言っていた。
美味しい魚は好きだ。
でも底の見えない荒く冷たいこの海は怖い。
私は迷わず家を出る選択をした。
進学も就職もせず、私が選んだのは青く透き通った海のすぐそばで働けるリゾートバイトだった。
衣食住が保証され、休みの日や仕事のあとは夢にまで見た青く透きとおった海で泳げる。
なんて素敵なバイトだろう。
訛りを隠して、真っ黒に日焼けして、白い砂浜と青く透きとおった海に身を浸す。
髪の間を通り頭皮にじわ、じわ、とひんやりとした感覚が到達する。
四肢の力を抜いて青い海に身を任せれば、まるでわたしもこの焦がれた青とひとつになれたような気さえした。
青い空が少しずつ橙へと染まっていくとき、世界で唯一人間の色をした私は取り残され、とぼとぼと与えられた部屋に戻るのだ。
冬の間はスキー場で宿泊施設付きのインストラクターも経験したが、夏と冬を何年か繰り返すうちに夏の仕事場から声がかかって年中同じホテルに務めるようになった。
海が好きだ。
黒い海じゃない。
青く透きとおった海が好きだ。
家を出てから、実家に帰ったのは成人式の時だけ。
次に帰るのはきっと、誰かの葬式の時だろうと漠然と思っていた。
誰かの葬式。
海は、人の命を簡単に飲み込むものだと、私は知っていたけれど解っていなかった。
2011年3月11日
家族と連絡が取れなくなった。
私たちが青い海に生まれ育ったのなら、こんな結末なんて訪れなかったに違いない。
青い海なら、きっと私の家族を優しく包んでくれたに違いない。
青い海なら、
青い海なら。
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