渡来人と縄文人

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 女性は、足の怪我が直るまでの間、男性の村で過ごすことになった。  しかし、顔に入れ墨があり、明らかに服装も違い、言葉も全く違うことで、好奇の目で見られ、居心地の悪さを感じていた。  だが、男性には感謝し、時折村を見て回ったりすることで、この村との文化の違いを感じることとなった。  回復した女性は、村へともどるも、その後も何度か男性を訪ね、言葉はいまだ通じないながらも、お互いにいろいろなことを教え合った。  そんなある日、海へと出た二人は、海で漁をする方法を女性が教えることとなっていた。 「海の向こうに、あなたの国があるの?」  青い海の果てを、指さすと、その意味を理解した男性は、深く頷くと、少し寂しそうな顔をした。  指を、交互に交差させ、胸を指さしてそれに手刀を突きつけた。 「争いがあって、人がいっぱい死んだ」  同じように、身振りをして、少し悲しそうにそう呟いた女性に、男性は頷くと瞳に涙を浮かべた。 (海の向こうでは争いが、あるんだ。いっぱい人が死んだのかな……)  そう思った女性は、男性の涙に、悲しみが募っていた。  男性に抱きつくと、体を強く抱き留めた。 「あなたたちが、そんな思いをして海を渡ってきたなんて知らなかった。この青く澄み切った海の向こうにそんな悲しい事があるなんて」  女性はそう言葉を口にすると、涙をながし、一層その手に力を込める。  男性はそれに、言葉の意味を感じ、ぎゅっと抱きしめ返してきた。  この時、初めて倭国(わこく)と呼ばれる国の元となる、文化の交わりが始まる予感が感じられた。それは後に村が国へと変わっていき、ここ日本でも争いが起きることとなってしまうのである……
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