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少女は、年を経て女性と呼べる年齢になっていた。
この年の夏も暑く、海産物を今日糧とするために、集めていた。
「あっ」
女性は、海の中でとがった岩場で足を切ってしまっていた。
なんとか岸に上がるも、思いの外、傷が深く、歩くのも困難な状態であった。
「どうしよう、痛くて立てない」
今日に限って、一人で来ていた女性は、途方に暮れることになった。
ここに居ても仕方が無いと、女性は痛む足を引きずって、歩いて行くも、傷のせいで発熱し、途中で気を失ってしまうことになっていた。
「ここは……」
女性が目覚めたのは、見知らぬ家の中だった。作りは自分たちの家とよく似ていたが、家、いわゆる竪穴式住居の中にある道具が違うことに気づいていた。
「痛っ!」
思わず立ち上がろうとして、足の痛みで再びしゃがみこむ事になった。
(そうだ、私足を……)
そう思い、足を見ると、誰かに治療されたようで、手当てされていた。
直後、物音を聞きつけたのか、一人の男性が入ってきた。
その男性の顔を見た女性は、ここが渡来人の村であることを知ることになる。
「あ、あの私……」
とそこまで口にしたとき、言葉が通じないことを思い出した。
男性は、女性のそんな様子に、やわらかな笑みを見せると、足を指さし、ぱんっと足を叩く。
(足の怪我は大丈夫かっていってるのかな)
そう思った女性は、足をさして、ありがとうの意味を込めて、胸に手のひらを置くと。
『イヤイライケレ』(ありがとう:アイヌ語)
といった。
いわゆる日本語、大和言葉と縄文人の言葉では、共通するものがほとんど無いといわれており、縄文人の言葉はアイヌの言葉とほぼ酷似しているのだそうだ。
それをみた男性は、胸をなで下ろしたように、笑顔をみせると一度頷き、何かを思い出したように、家の外へと飛び出す。
すると直ぐにもどってきて、手にした腕を女性にわたす。
それを手にすると女性は、自分を指さすと、頷かれ、それを口にする。
「おいしい」
女性は、いままで食べたことのない羹を口にし、味の濃い食べ物に驚きながらも、味わって食べると、それを男性は満足そうにみつめていた。
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