3 伯爵夫人は、幽霊の出現に悩んでいる

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 トニヤのアトリエに現れたアネッサ・ロレダーノ伯爵夫人は、美しいビロードのような毛並みをした、クリーム色の猫だった。彼女が乗ってきた高級車は、周囲が見えなくなるほどの蒸気を吐き出しながら停車して、トニヤのアパートの前をビショビショにした。 「アパートの前には、車を長く停めない方が良いですね。恥ずかしい話だけれど、この辺りの住民は行儀が良くないのです。銃で脅されて、車ごと盗まれますよ」 「ご心配なく。運転手には三十分ほど周回してくるように言いつけました。スタンドでタンクに水を入れてくるそうです」 「そうですか。では、散らかっていますけれど、どうぞ座ってください」  トニヤは、ロレダーノ伯爵夫人の毛色に合わせた淡緑色のドレスを見て、描きかけのキャンバスや、ネジが緩んで傾いてしまったイーゼルを片付けようとした。散乱した絵の道具で、彼女のドレスを汚してしまうことを危惧したのだ。だが、三年の間に蓄積されたゴミの山はかなり手強く、どうにも収取がつかない。  トニヤはパレットを片手に諦めの表情を浮かべた。
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