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「食卓のスツールをお借りできるかしら? あの辺りは安全みたい」
「生ゴミの匂いがするけど、そこで良ければ。申し訳ないけど、ソファーがこのありさまなので」
トニヤは両肩をすくめて見せると、手にしていたパレットをソファーに放り投げた。すでにソファーの上はクシャクシャになった画用紙で満杯だったので、その上に絵具が飛び散っても何の問題も起きなかったのだ。
「ところで……」
トニヤとロレダーノ伯爵夫人は、ほぼ同時に同じ言葉を口にした。そういう場合はレディーファーストだ。トニヤは話の主導権をロレダーノ伯爵夫人に預けると、自分は愛飲しているインスタントコーヒーの瓶を発掘するため、キッチンに向かった。
「依頼の内容をお話したいのですが、フォースター夫人からはどの程度まで……」
「アニーから聞いているのは、お屋敷に幽霊が出る、ってとこまでです。庭園に若い女猫が現れるそうですね」
「はい。一月ほど前……主人の葬儀が終わった頃から現れるようになりました。最初は夢枕に立たれてビックリしたのですけれど、しだいに庭園へと場所を移して現れるようになりました」
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