3 伯爵夫人は、幽霊の出現に悩んでいる

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「へぇぇ、珍しいですね」 「珍しい、のですか?」  ロレダーノ伯爵夫人は、まん丸で愛らしい形をした、ターコイズブルーの瞳をクルクルと動かした。 「そうです。通常幽霊って奴は、ほとんどの場合家の外からやって来るものです。悪霊だぞぉ。お家に入れろぉ。お家の次はお部屋に入れろぉ、って具合にね。ところが彼女は、最初はお屋敷の中に現れて、徐々に庭園へと移動して行った。順番が逆な訳です」 「そういう……ものなのですか?」 「不思議ですけど、そういうものですね。幽霊って奴らは何かしらのルールがあって、それに縛られているのです。だから、ルールを知らない生者側から見ると、理解に苦しむ行動をするのです」 「そういう……ものなのですね」  ロレダーノ伯爵夫人は、ああ、と深いため息をついた。そしてどことなく、腑に落ちた表情を浮かべた。 「とても恐ろしかったのですけれど、彼女が手招きをするものですからついて行きました。そうしたら庭園へ」 「手招き? 喋らなかったのですか」 「ええ、一言も。幽霊が私にした事は、手招きだけです」
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